大阪高等裁判所 平成9年(ラ)670号 決定 1997年12月01日
抗告人 柏木鉄男
相手方 柏木良助 外4名
被相続人 柏木鉄之助
主文
原審判を取り消す。
本件を大阪家庭裁判所に差し戻す。
理由
第一本件抗告の趣旨と理由
一 抗告の趣旨
原審判を取り消し、さらに相当な裁判を求める。
二 抗告の理由
別紙1・2に記載のとおり
第二当裁判所の判断
一1 原審判は、被相続人柏木鉄之助にかかる本件遺産分割につき、相続人の範囲を抗告人と相手方らの6名、遺産の範囲を原審判添付別紙遺産目録一覧表1・2(不動産と貯金)とし、遺産の総額を計4億0270万円と評価して、抗告人(法定相続分12分の1)に対し、本件遺産中から同遺産目録一覧表1(4)の土地(評価額3500万円)と相手方柏木トシ枝から支払を受ける代償金1573万円を取得すべき旨を命じたが、遺産を評価する基礎としたのは不動産鑑定士の資格を有する調停委員が調停時に現地調査の結果を踏まえて提出した「調査報告書」である。
2 一件記録によると、本件遺産分割申立事件は平成7年10月18日に調停事件として申し立てられ、調停委員の指定後直ちに調停委員に準備的調査が命じられ、同年11月から平成8年5月まで調停委員による事実の調査が行われた中で平成7年11月17日に上記調査報告書が提出されたこと、同報告書では分割時の遺産の時価評価が行われ、その評価に基づいて調停委員会による調停案が作成され、平成8年5月7日の第1回調停期日において抗告人及び相手方らに同案が提示された結果、相手方らは同案に同意したものの、抗告人はこれに同意しなかったこと、同年6月18日の第2回調停期日においても、相手方らは原審判の主文と同内容の調停案を受諾したが、抗告人はやはりこれに同意しなかったため、調停不成立となって本件審判に移行したこと、そして、審判手続においては審判期日は開かれることなく、同年6月26日、相手方らの受諾した調停案と同内容の原審判がなされたことが認められる。
3 遺産分割審判における遺産中の不動産の評価方法としては、必ずしも不動産鑑定の資格を有する者の専門的鑑定を経なければならないものではないが、とくに不動産の分割に加えて金銭上の分割をも行う場合には、不動産の取得者と金銭の取得者間の実質的公平を図るためにも、不動産の客観的価額を専門的知識に基づいて算出するのが望ましいから、専門家による鑑定を採用するのが相当であり、鑑定の方法によらないときは、評価方法につき少なくとも当事者全員の合意を得る必要があるといわなければならない。
本件においては、上記調停手続の経過中に不動産の評価方法につき当事者間に合意が成立していたとは認められず、審判手続においても同様である。
したがって、原審判は、不動産の評価方法につき専門的鑑定を採用せず、当事者全員の合意も得ないまま、不動産鑑定士の資格を有するとはいえ調停委員の簡易な評価意見のみを基礎として遺産の評価を行った点で、裁量権を逸脱した違法があるというべきである。
二1 原審判は、抗告人の取得すべき遺産を定めるにあたり、その法定相続分を12分の1と定めながら、評価額3500万円の土地を取得する以外に代償金1573万円をも取得するものとしているが、原審判が認定した遺産総額4億0270万円を前提とすれば、抗告人の相続分額は3356万円となるから、原審判の定めた抗告人の取得額はその相続分を大幅に超過するものである。
上記調停手続中に提案された調停案では、同超過額は抗告人の寄与分として算定されていることが記録上窺われ、原審判は同案をそのまま採用したものと考えられるが、抗告人は、原審では、弁護士を代理人として委任することなく調停・審判手続を遂行したため、寄与分を定める処分の申立はしていない。
2 抗告人は、抗告理由において、寄与分の主張を明確にし、原審判の認定した寄与分相当額が不当に低額である旨の主張をしているが、上記調停・審判手続の経過や抗告審での主張内容からみて、抗告人は本件遺産分割において当初より寄与分の主張をしていた可能性もあることが窺われるから、原審としては手続が審判に移行した後、抗告人に対し寄与分を定める処分の申立をするか否かを釈明すべきであったといわなければならない。
しかるに、原審がかかる釈明を行い、これに応じて抗告人が寄与分に関する対応を明らかにした形跡は認められない。
抗告人が寄与分を定める処分の申立を行い、調査の結果、これが認められる場合には、その内容如何によって原審判の定めた分割内容に影響することは明らかであるから、その点に関しさらに審理を尽くすのが相当である。
三 よって、原審判を取り消し、さらに審理を尽くさせるために本件を大阪家庭裁判所に差し戻すこととして、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 小林茂雄 裁判官 小原卓雄 長井浩一)
(別紙1)
抗告の理由
1 抗告人柏木鉄男が別紙遺産目録一覧表1不動産1-(4)記載の不動産(3500万円)を取得し、更に預貯金の中から1573万円を取得することを他の相続人が承認し、柏木鉄男が取得すべき不動産としては、他に適当なものが見当たらないとするのであるが、以下、上記の点について、柏木鉄男の不服とする点を述べる。
2 遺産不動産の価格について、不動産鑑定士調停委員○○の調査報告書により、価格を決めているが、その鑑定意見は不当である。
柏木鉄男が相続するものとした目録一覧表不動産1-(4)の不動産を3500万円と評価しているが、貝塚市長作成の固定資産税評価証明書によれば、4,715,552円となっており、相続税の申告の際の評価では、20,571,200円となっている。相続税の評価は路線価を基準としている。
他の物件の評価についても、添付の資料と比較して不当である。
3 審判は、柏木鉄男の寄与分として23425万円に対して8%の寄与分を認めた計算になっているが、目録(1)(2)(6)(7)の不動産についてのみに寄与分8%というのは不当である。
柏木鉄男は、昭和40年頃から昭和59年頃にかけて、柏木鉄之助と柏木トシ枝の生活維持のため、月2万円から5万円宛を渡してきたのであり、父柏木鉄之助は傷痍軍人で、田の耕作の仕事は殆ど柏木トシ枝と柏木鉄男においてなしてきたものである。
抗告人の寄与分として、遺産の一部について8%の寄与分しか認めなかったのは不当で、本人の寄与分としては、遺産の20%程度の寄与が妥当であると考える。
4 柏木鉄男は、遺産分割について、的確な主張をせずに審判がなされてしまったので、抗告審に於いて、更に審判され、原審判を取り消すことを求める。
(別紙2)
第1、 抗告人の寄与
(1) 抗告人は、昭和11年3月21日生まれであるが、長男として、幼いながらも戦前から、家の農作業を手伝ってきた。
そのうえ、亡き父柏木鉄之助は戦争により、傷痍軍人となり、母柏木トシ枝と抗告人の2人がほとんど、農作業に従事しながら家を支えてき、他の兄弟の面倒をみてきた。
抗告人は、長男として、それを当然として受け止め、苦しい生活のなか、家のために懸命に働いてきた。
(2) さらに、抗告人は、昭和40年頃から同59年ごろにかけて、亡き父柏木鉄之助と母柏木トシ枝の生活をみるために、月2万円から月5万円の金員を渡してその生計を支え遺産の維持に寄与している。
(3) そして、本件不動産は、戦後亡き柏木鉄之助名義で所得した不動産であるが、その不動産の取得並びに維持については、長男である抗告人が特別に貢献している。
(4) よって、抗告人の遺産分割の審判にあたっては、抗告人の寄与分、貢献を適切に判断する必要がある。
第2、不動産1-(4)について
(1) 平成8年6月28日付の審判では、抗告人柏木鉄男が別紙遺産目録一覧表1不動産1-(4)記載の不動産(3500万円)を取得することになっている。
(2) しかし、即時抗告の申立書で主張しているように、同不動産を金3500万円と評価することはできない。
すなわち、同不動産は、貝塚市長作成の固定資産評価証明書で4,715,552円、相続税申告の評価額で20,571,200円にすぎない。同不動産は、形状は極端な不整形地(長い三角地)であり、かつ、立地条件も悪く、金3500万円と評価することはできない。他の不動産の評価額と比較しても、不動産1-(4)の評価額の鑑定意見は不当である。
〔参考〕 原審(大阪家岸和田支 平8(家)1000号 平8.6.26)<省略>